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彼はこの状況に
喜んでいるわけじゃない。
嬉々としてマダムの手を
受け入れているわけじゃない。
そう自分に言い聞かせ
なんとか嫌悪感をやり過ごす。
『大切? 特別な、でしょう?
……あら。Ms.コイズミも来ていたのね』
ようやく私の存在に気づいたマダムが
温人さんにしどけなく
身体を絡ませたまま
気安げに笑顔を向けて来た。
私はそれに
うまく笑い返せただろうか。
こちらを向いた温人さんがやんわりと
マダムの体を押し返すようにして
私の隣りに立った。
むせ返るような薔薇の中で
彼だけの香りを見つけ
そうしてようやく
ほっと息をつくことが出来た。
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