320人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
『失礼いたします』
努めて冷静にと
いつも以上に自分に言い聞かせ
私はその重厚な扉を開いた。
ここ、キングスイートの部屋に
足を踏み入れるのは
実は入社時見学した以来。
つまりお客様がご利用中に
サービス目的で入室するのは
はじめてのことになる。
ここはそう頻繁に
利用される部屋じゃない。
そういう特別な場所なのだ。
他の部屋では嗅いだことのない
甘いバラの香りに全身を包まれ
一瞬くらりと視界が揺れた。
これほど濃厚な香りは
彼女だからこそ
許されるものだと思う。
最初のコメントを投稿しよう!