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空想スケッチ
中学校入学式の日は快晴だった。澄み渡る青空がどこまでも広がっていた。
新入生の夢幻うつつ(ゆめまぼろし うつつ)は母親に連れられて桜並木を歩いていた。この道は中学校の正門へ続いている。
風が吹いた。桜の花びらが舞い散る。夢幻うつつの適当な長さにのばした髪の毛が揺れる。
年相応の背格好。標準的な体格。整った目鼻立ち。夢幻うつつは周囲を見回し感動する。
「見て見て。お母さん桜がきれいだよ」
「本当きれいね」
夢幻うつつの母親の夢幻うらら(ゆめまぼろし うらら)がほほえむ。目の前に広がる桜の花びらの美しさに心奪われていた。
「お母さんお母さん。スケッチしてもいい?」
「いいけど、あまり時間ないわよ」
スケッチブックはいつも持ち歩いていた。今日も持ち歩いている。夢幻うららはかばんからスケッチブックとペンを取り出すと夢幻うつつに手渡した。
夢幻うつつはいつも時や場所を問わずスケッチを始める。夢幻うららは夢中でペンを走らせる姿をあたたかく見守る。
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