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椅子に腰掛け、紅茶を啜る。昔にもあっちの世界からやって来た人はいるようで、そのうちの誰かが伝えた紅茶のパック技術はとても役に立っていると思う。しかし、正直言って美味しくない。というか不味い。茶葉が駄目なのか、茶葉の組み合わせが悪いのか、レモンティーのはずがレモンティーの欠片すらない。まずレモンなんてあるのかこの世界に。
それはそれとして、紅茶を入れる心得のある人がやればまだマシになんだろうなぁ……と、そう思いながら隣を見ると、どこか寂しげな表情をするフーリアさんが目に入った。
「………………」
…………フーリアさんの悲しそうな表情は、僕が彼女の仕事である事を、僕かやってしまうときによくみる。メイドとしての役割を主がやってしまう。僕がメイドの立場なら「僕は必要とされてない」と思ってしまうだろう。
この異世界で『メイド』という存在定義は、主に忠誠を誓い、主の世話を担当する世話役であり、何事においても主人第一として考え、状況によっては身を呈して主を守る騎士であること。いわゆる完全無欠の存在。主に対する全てを一人でこなす職業の事を指す。
フーリアさんが悲しむのは、僕から掃除以外の仕事を任されない、という点だ。自分が頼りにならないから仕事を任せてもらえない……と思っているかもしれない。
間違えてほしくないのが、僕は一度もフーリアさんを、頼りにならないなんて思ったことはない。ただ、赤の他人ってだけで何から何まで世話を焼いてもらうのは変だと思っているだけ。
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