エピローグ

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「幸人は素直じゃないから」  涼太は椅子の背もたれに腕と顎を乗せ、可笑しそうに眼を細めながら僕を見つめる。僕は、少しの諦めとともに小さく息を零す。 「もう何もかも思うままに振る舞って良い年齢でもない。それに……」 「それに?」 「できないんだ。どうしたらいいか、わからない」  いつも、どこか自分の感情を押し殺していた。自分が何かを望んだり、主張したり、信じたりすることは、誰かを――父を、祖母を、困らせたり、悲しませたりしてしまうのではないかと、特に臆病になっていた。育ててくれた父も、涼太と母も、祖母も、そしてきっと僕を産んでくれた実の母親も、僕を大切にしてくれていたことは理解している。それでも、長い年月をかけて形成された澱は、心の奥底にはりついて簡単には剥がれない。 「素直になるということは、自分の存在を受け入れてもらえると、自分を信じていること。ちっぽけなプライドを捨てて、弱い自分と向き合う強さがあることだと思う。実際、それは簡単なことじゃないし、誰もができるわけじゃない。だから、素直になれないのは何も恥ずかしいことじゃないんだ」  静かに語る表情は優しい。     
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