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小学校に上がったばかりの頃だったと思う。僕は夏休みに入ってすぐ、海辺からほど近い場所にある田舎の、父方の祖母の家に預けられた。当時祖父は既に他界し、祖母は独りで暮らしていた。家は古い日本家屋で、独りで住むにはあまりにも寂しげだったが、いつ子供たちが帰ってきても良いようにと、祖母の手によって綺麗に整えられていた。ぎしぎしと軋む板張りの廊下、明るい陽射しが差し込む縁側、軒下に残るつばめの巣の跡。僕にとってはなにもかもが珍しい場所だった。
特にお気に入りだったのは、祖母が大切に世話をしていた広々とした畑だ。青々とした大きな葉の下に、つやつやと黒く輝く茄子。自分の身体よりも背の高い茎に、拳よりも大きい真っ赤なトマトが連なる。足元にはどっしりと埋もれる真ん丸のスイカ。その下を探れば、我先にと逃げ出そうとする虫たちが現れる。そして稀に見つけることのできる、綺麗に削られた色とりどりのガラスの欠片……ここは、まさに宝箱のようなところだ。
その日も、夕方の涼しくなったころを見計らって、祖母が畑の手入れをしに行くのについていっていた。迷路のような畑を駆け回り、宝石のようなガラスを探し、戦利品を手に顔を上げたときには、ずいぶんと離れたところまで来てしまっていた。
「綺麗だね」
帰らなければ、と踵を返そうとしたとき、そう声をかけられた。ここへきて、祖母と一緒にいるときに何度か挨拶を交わした、父と同じか、それよりももっと若いか――当時の僕からすれば"大人の男の人"が目の前に立っていた。
僕は手に持っていた緑がかった水色のガラスの欠片を見つめ、小さく頷いた。
「もっと綺麗なものがあるんだ。見てみたくないかい?」と静かな口調で問われたことを覚えている。
僕は、彼が祖母の家のすぐ近くにある小さなアパートの住人だということを知っていた。彼は祖母とも面識があるし、祖母もどうせまだ家に戻ることもない……ちょっと行ってすぐに戻れば、晩御飯にも間に合う。「もっと綺麗なもの」がどんなものなのか、そのことで既に頭がいっぱいだった。それに、嬉しかったのだ――ここで祖母以外の人と話すことは、滅多になかったから。
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