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 白い塗装がところどころ剥げ、潮風に赤く錆びついた手すりを触りながら階段を上っていく。小さな鍵をポケットから取り出し、ドアを開けて僕を招き入れる。カーテン越しに差し込む夕日が簡素な室内を赤く染め上げ、熱を籠らせている。まっすぐ進んで突き当りの右側にもう一つドアがあり、彼に続いて中へ入っていった。  そこには、大きな水槽があった。傷一つない透き通ったガラスの箱の中に、密集する大小さまざまな種類の水草。一面を苔に覆われた、大きくうねる古木。そして、目に鮮やかな小さな魚たち……明るく照らされた水草の間を自由に泳ぎ回るようすは、昔絵本で見た森の中で遊ぶ妖精のようだった。僕は食い入るように見つめながら、その動きを夢中で追いかけていた。ことり、という物音にはっと振り返ると、彼はお茶の入ったグラスを置いて、僕のほうを見ていた。 「綺麗だろう?」  そういう彼は、少し誇らしげな顔をしていたような気がする。ただ、その瞳はどこか暗く、鈍く光っていた。辺りが薄暗くなる気配を感じ、僕はそろそろ帰らないと、と言った。祖母が心配しているかもしれない。  しかし、彼はゆっくりと首を振り、まだここに居ても大丈夫だと言った。そしてそのまま僕を置いて、部屋を出ていった。  僕は戸惑った。部屋を出ようとして――ドアが開かないことに呆然とした。彼はどこへ行ったのだろう。そして僕は……どうなってしまうのだろう?不安が押し寄せ、胸が詰まり声を発することもできなかった。ただただ、音も立てずに泳ぎ回る魚を見つめ、途方に暮れていた。  そうしている間にも夜が忍び寄り、水槽の照明だけが煌々と光る前で、僕は膝を抱えてうずくまった。蝉の鳴き声もすっかり止み、ポンプが振動する音だけが僅かに響く。遠くから、波が岸に打ち付ける音が聞こえてくる気がする。暗い静けさの中で、僕は怖れをそっと抑え込むように目を閉じ、じっと待つほかなかった。
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