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自動ドアをくぐり抜けた瞬間、僕はすぐに後悔した。視線の先では背の高い男がこちらを振り向き、足早に近づいてくるのが見える。このまま回れ右をして家に帰ろう。今日も休んでしまえばいい。そう決意して足先の向きを変えようとしたときには、そっと腕を掴まれていた。
「白坂さん、」心配そうな声音で言う。僕は視線を合わせることができず、動揺を隠そうと口元に手をやる。もっと遅く……いや、もっと早く来るべきだった。
「お久しぶりです。昨日は来られていなかったのかな。白坂さんがいないのは珍しいから、どうしたのかと思っていましたが……」
言葉を区切って、逸らした僕の顔を覗き込むように言う。
「顔色が悪いですね。もしかして体調が悪かったとか……?」
あまりに居たたまれなくなって、 振り払わない程度に腕を掴む手を外し、首を横に振った。
「大丈夫です」
一言発するのが精いっぱいで、そのままエレベーターに乗りこもうと歩き出す。当然のように瀬戸はついてきて、再び問いかけてきた。
「もしかして……怒ってますか……?」
戸惑ったような声が、後ろから追いかけてくる。
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