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一人で集中して物事に取り組むのは、昔から得意だった。他人を顔色を窺わず、自分のことだけを考えれば良い。他人が自分をどんな風に見ているのか、自分の存在をどのように感じているのか。どうしたって気になってしまうのだ――僕のような、マジョリティに属せない人間にとっては尚更。
「そういえばこの間吉田も言ってたぞ?最近も相変わらずゆっきーがつれないってな」
「それ、もういい加減忘れてください……大体吉田だって結婚したばかりでそんな暇ないでしょう」
隣の部署にいる恰幅の良い同期は、入社当初からなんとなく輪に馴染めていない僕を気にかけて、なにかにつけて世話を焼いてくれていた。人の良さそうな顔に満面の笑みを浮かべて、俺の好きなアイドルと同じニックネームだな、なんて安直で不本意な呼び名をつけてきたのもそいつだ。面と向かって言ってくるのは吉田くらいだが、僕のことが話題にあがると勝手にそう呼んでいたらしく、いつの間にか後輩や、こうして上司にまで広まっていた。もしかしたら、吉田なりの気遣いだったのかもしれない。ただ、いい歳した男に向かって若いアイドルと同じ呼び方だなんて、冗談もほどほどにしてほしい。
「まあ、それでもお前ならできると思って指名したんだ。」
自分の席に腰掛けながら、悪戯が成功した子供のような顔でこちらを見上げてくる。
「なんてったって俺が育てたんだ。――できないわけないだろう?」
まったく、こういうところが性質が悪いというんだ。僕のような、少々ひねくれた人間の背中の押し方を……そして自分の魅せ方を、よくわかっている――それにまんまと引っかかる自分は本当に救いようがない。
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