エピローグ

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「幼いころに素直でいられるのは、周囲から無条件に愛情を注がれて、それを疑うことがないからかもしれない。俺が幸人にそうしてもらったように」  涼太が腕を伸ばし、指先でそっと僕の前髪に触れる。 「大人になるにつれて、いつの間にかそのことを忘れてしまう。注がれた愛情が薄れるわけではないけれど、きっと欲深くなるんだ。今度は、もっと誰かに認めてもらいたい、信じてもらいたいって」 「涼太も?」  軽く眉を上げて、肯定とも否定ともとれない表情をする。 「だから幸人にも、自分を信じてもいいって思えるような、自分だけでは難しくても、たった一人でも、この人が一緒なら強くなれるって思えるような、そんな人がいたらいいなと思ってる」  僕をまっすぐ見据えて、確信を込めて言う。 「そうすればきっと、その人の前でだけは素直になれるはずだよ」  穏やかな春の陽光のような笑顔を思い浮かべる。彼が僕に向ける熱い眼差し、優しく触れる指先、時折制御を忘れたように動く唇……何もかもが新鮮だった。彼はいつでも、温かで幸せに満ちた感情を、僕に惜しみなく降り注ぐ。それは、乾いた大地に水が染み込んでいくようにじんわりと心に潤いをもたらし、奥底の澱をゆっくりと溶かそうとしている。 「まあでもその様子じゃ、余計なお世話だったかもね」  はあっと大きく息をつきながら続ける     
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