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 しんと静まり返るエントランスホールを見渡す。視界の隅で、非常口の青い光がぼんやりと周囲を照らしている。ガラス窓にはりつく雨粒が、形を変えながらいくつもの筋を作って流れ、消えていく。まっすぐに地面に叩きつけられる水滴は延々とノイズを生み出し、周囲の音をかき消している。  5日間。ここで瀬戸と顔を合わせていない日数だ。  この場所で瀬戸と出会ってから、既に2ヶ月以上が経っていた。何度か顔を合わせない日もあったが、翌日には大抵、いつもと変わらない様子で……優しい笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。そして前の日は出張に行っていたとか、取引先に直接出向いていたとか、必ずそんな言葉から始める。  いつ来たって、来なくったって良い。ましてや僕に……そんな言い訳のようなことを言う必要だってない。そう彼に言ったことがある。すると彼は少し驚いたように、それからほんの少し考えるそぶりを見せた後に、「もしかしたら、待ってくれていたんじゃないかと思って。」と照れくさそうに言った。  その言葉を理解した途端、耳の先までカッと熱くなり、冗談を言うなと笑い飛ばすこともできず、もごもごと意味のない言葉を呟くことしかできなかった。  彼の言う通り、僕はいつの間にか、毎朝彼が来ることを期待していて、そうして姿が見えなければ、どこか落胆している自分に気が付いてしまったのだ。
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