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その夜は、秋らしい澄み渡った空に月が輝いていた。
その夜は、空気がピンと張りつめているような寒さを感じさせた。
同僚から誘われたおしゃれなディナーを断って私は、子どものような気分を抱えて郊外にある一軒家へと帰宅する。
誰もいないはずの我が家の中に灯りを見たような気がしたが、母親が用心のために点けておいたのだろうと思った。
そして、普段はあまり使うことのない鍵で思ったよりもすんなり玄関扉を開けると、自宅へと踏み込んだ。
「ただいま・・・・・・と言ってみたりして」
誰に聞かせるでもなく言った・・・・・・つもりだった。
「おかえり」
響くはずのない自分以外の声に廊下で歩みを止めてしまう。
しかしその声の主に覚えがあったので、気を取り直してリビングへと向かった。
長い廊下を抜けると、果たしてガラス戸から明かりが漏れていた。
――――ふぅ・・・・・・
と溜め息を一つ吐き出すと、扉を開ける。
誰もいない予定だった部屋から暖かい空気が流れる。
冷たくなっていた耳がじんと軽く痛んだ。
そして目の前には予想していた人物がソファにいた。
なぜだか膝を抱える感じで座っている。
相も変わらず長い足を器用に折り畳んでまで・・・・・・。
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