遠くへ逝きたい。

4/151
前へ
/151ページ
次へ
「いや、それは別にいいけど……」 式も披露宴もやろうと思ってなかったし、新婚旅行なんて考えもしてなかった。 指輪だけで十分だってずっと言ってはいたんだけど、それじゃ彼の腑に落ちなかったのかな。 「お前と暮らし始めてから、本当に毎日楽しくて幸せだ。お前と出会えて本当によかった」 「それは俺だってそうだよ」 「ありがとう。愛してるよ」 「……うん」 体が熱くなる。仕事場だってこと忘れそうになるくらい。 「ハニー……」 「……ん」 そのまま、ゆっくり唇が重なり…。 そうになったところで部屋のドアが開いた。 「社長、来月の定例会の件ですが」 秘書サンだった。 慌てて立ち上がった瞬間に目が合ったけど、眼鏡越しの彼女の表情は変わらない。 「お取り込み中でしたか、失礼致しました」 軽く頭を下げたくらいで全く動揺しない。すごい。 俺なんか素っ裸見られたみたいにドキドキしてるのに、彼の方もご機嫌に笑ってるし。 「なぁに、大丈夫さ、見せつけてたんだ」 「そうでしたか」 「うちのハニーは本当に可愛くてなぁ」 「仲睦まじくて何よりです。それで来月の定例会の件ですが」 え、なんでそんな淡々としてるの?なんでなの? 彼と仕事し始めてから、本当に驚くことばかりだ。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

645人が本棚に入れています
本棚に追加