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遠くへ逝きたい。
「なぁハニー、新婚旅行のことなんだが」
彼が突然、たくさんの旅行パンフレットを抱えて、目を輝かせながら俺に微笑みかけて来た。
「はっ、何?」
しかも交渉数ヶ月に及ぶデカい商談終わった直後の社長室で。
秘書サンも部屋から出てって、やっとネクタイ緩められると思ったら、デスクからいそいそと雑誌やパンフレットを引っ張り出して、キラキラの笑顔を向けてきた。
正直、仕事中は戦闘モードみたいなもんだから、急に家の中みたいなテンションで、気の抜けるような話題を振らないでほしい。
「だから、新婚旅行さ。まだ行ってないだろ、新婚旅行」
「いや、だからなんで急に新婚旅行なの?」
戦闘モードのままだから、頭が付いていかない。思い立ったが吉日みたいな彼の性格が、ちょっと羨ましい。
「行ってみたいところがあるんだが、ちょっと聞いてくれないか?」
俺の戸惑いなんか全く気にしていない。
「いや、なぁ、まだ仕事中…」
場をわきまえろと言いたい俺の方がおかしく思えてくるほどのテンションで。
まぁまぁと適当に宥められながら、応接用ソファに座る彼の膝の上にちゃっかり座らされた。
俺の膝の上に、1つ、パンフレットを乗せる。
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