プロローグ

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「――っは!!!!」  目の前に広がるのは、あの頃の森では無く自らの部屋。  見慣れた化粧台にロッカー、小さめの机に置かれたカップは近くに居た者に持ってきてもらったもの、だったか。  私はいつの間にか出ていた大量の汗に、夢だったかと安心する。  首に張り付く髪の毛を汗と同時に拭い取り、着ていたネグリジェを脱ぐ。  私は基本、寝る時に下着は身に着けない。  パチンッと一つ指を鳴らして部屋に明かりを灯す。  汗で汚れてしまったシーツに洗浄(クリーン)という魔法を掛けて洗濯後と同じようにし、ペタペタと室内を歩いて行く。 「……はぁ」  自室に備え付けてもらった浴室に向かう際、必ず目に入る、この大きな鏡。  壁に取り付けられたそれをじっと見つめ溜息が漏れる。  自分で言うのもなんだが、私のプロポーションは最高だ。  豊かに育ってくれた胸、程よく肉がついているが、縦に線の見える腹。その周りは(くび)れており、其処から先は又、安産型と呼ばれるであろう。  スッと伸びた脚は上体よりも長く、よくメイドや部下の女性達から羨ましいと言われる。  しかし、今の私はいつもの私じゃない。  下がっていた視線を上にあげ、その全てを台無しにしている“顔”を見つめる。  別に不細工なわけではない。逆に言えば、この魔国で最も美しいと名高いのはこの私だとよく言われている。……いや、今のは無しにしておこう。
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