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私はもう一度、今度は細い溜息を吐いて、再度鏡に映る顔を見る。
「こんなんじゃ、お嫁どころか、町すらも歩けないわ」
酷く赤らんだ目元を人差し指の腹で押し、この野郎と呟く。
「……お風呂入ろ」
もうこの顔を見るのは嫌だ。
私は持っていたタオルを浴室内に掛け、シャワーを頭から浴びる。
あの夢は実際に体験した記憶であり、私が六歳になった時の事である。
事のあらすじはあのまんま。しかし、話には続きがある。
その後、服を割かれた私は全身が露わになり、その悍ましい何かに嘗め回された。
未だにあの時の感覚は残っており、思い出すだけでも背筋が凍り付く。
それから事に及ぼうとしたそれが、自らのズボンに手を掛けた時だった。
突如それが血を口から吹き出し、凄まじい衝撃と共に倒れ込んだのだ。
それによって私に血が降りかかり、下敷きにされたのは言うでもないか。
数秒と立たずにそれは私の上から吹き飛び、次に現れたのがお父様。
瞬間、私は何一つ理解できなく混乱したが、徐々に落ち着きを取り戻し、その暖かな胸へと飛び込んだ。お父様は何も言わずに頭を撫でてくれ、私に羽織っていたローブを着せてくれた。
――しかし、喜ぶ私とは一変し、お父様の表情は未だに硬かった。
それから次に血を流したのはお父様だった。
原因は吹き飛ばされた肉達磨によるもので、不意を突かれた一発。私が居たが為に不意が出来てしまった一発。
それにより命を落としたお父様の最後の軌跡が、咄嗟に放った私への転移魔法。
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