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確かショッピングモールの地下駐車場に入ったはずだと思ったが、刑事の意図がわからず流史は黙っていた。
「俺のマンションの真下だ。来い。手当てしてやる」
「警察に連行しないでいいのかよ」
「何度ぶち込んでも反省しない奴連行する程暇じゃねえんだよ」
すると流史は無言でその場から立ち去ろうとした。刑事はイラついたため息と共に、わざと流史の怪我をした方の腕を掴んだ。流史は悲鳴を上げて立ち止まった。
「ここから血垂らしながら帰られたら迷惑だ。俺が中途半端な仕事したのがバレちまう。さっさとこっち来い」
疲れた上に怪我をしていた流史にそれ以上刑事に逆らう力はなく、彼のマンションに連れて行かれた。ショッピングモールに隣接したそのマンションは、まだ出来たばかりの綺麗な建物だった。
「へー。アンタこんな所に住んでたんだ」
「似合わねーか?場所が便利だから選んだ。それに・・・」
この窓からは、東京の夜空に咲く花火が見える。そう言い掛けて止めた。
刑事の名は、獅堂憲次。33歳、独身だ。遊ぶ暇はないが、都心にマンションを買う金はある。立っているだけで迫力がある身長190センチの巨漢で、その上筆を思いっきり押しつけて描いたような太い眉に負けない大きく鋭い目で睨み付ければ大抵の人間は震え上がる。けれど流史は違う。睨み付ければ目力では負けない大きな瞳で睨み返してくる。
「おまえ汚ねーな。まあいいや、そこの床に座れ」
獅堂がフローリングを指差すと流史はふてぶてしい顔で彼を睨み上げたが素直に床に座り、獅堂は流史の傷を確認した。
「ああ、そんなに深くない。ちょっと待ってろ」
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