199人が本棚に入れています
本棚に追加
流史は昨夜着ていた自分の服を摘まみ上げ、ため息をついた。それは無残に汚れ、しかも切り裂かれていた。
「捨ててくれ」
「だな」
流史は再びため息をついた。
「別に俺だって、そのシャツみたいになりたいわけじゃない。でも・・・」
「ああ、そうだろうな。悪いが泣き言を聞いてる時間はない。帰るなら早くしてくれ」
流史は獅堂のそっけない返事に眉を顰めたが、獅堂が玄関に向かうと黙ってついてきた。
「じゃあな」
玄関の扉を開けながら声を掛けた獅堂の脇を無言ですり抜けて、流史は外へ出た。獅堂は玄関の鍵を掛けてその後を追ったが、流史は先にエレベーターに乗り込み扉を閉めた。
「あ、おい!」
呼び止めても流史は扉を開かず、扉についた窓の向こうから獅堂に向かってペロリと舌を出してみせた。獅堂はエレベーターに駆け寄りボタンを連打したが、エレベーターは流史だけを乗せて下へ降りて行ってしまった。
「ガキが!」
頭に来た獅堂は階段を駆け下りたが、結局疲れただけで流史には追いつけなかった。
最初のコメントを投稿しよう!