199人が本棚に入れています
本棚に追加
3.欲望に忠実な男×都合のいい男
そしてやや不機嫌なまま出勤すると、獅堂はすぐに紅峰に捕まった。
「獅堂さん、昨夜何処にいました?何度掛けても携帯にも家電にも出ないし」
セックスをしていたことはまだバレていないだろうが、紅峰は怒っている。怒っているけれど、手には獅堂好みのコーヒーが握られている。
実は紅峰には不思議な能力がある。常にではないが、感覚が鋭敏な時には過去の映像や若干先の未来が見える。つまり獅堂を待っていた紅峰は、獅堂の出勤を予期して絶妙なタイミングでコーヒーを用意していたわけだが、獅堂は慣れているので驚かずそのコーヒーを口に含んだ。
「うん、今日も美味い。おまえ、刑事辞めて占い喫茶でも始めたら・・・」
「動きましたよ」
「え、例の・・・?」
流史の恋人だった少年とはまた別の事件の話だ。
製薬会社に勤める会社員の男性が、帰宅途中に何者かに首を絞められ殺された。事件発生時の目撃情報はないが、男性が度々ある飲食店を訪れ仕事関係にも友人関係にも見えない派手な服装の男と会っていたという知人の証言を受け、その店に協力を願い出ていた所、昨夜それらしき人物が店に現れたと店主から連絡があったのだという。
「で、会えなかったわけだ。俺のせいか?」
「いえ、すぐに行っても間に合わなかったと思います」
「あ?間に合わなかったって・・・行ったのか?おまえ一人で?」
「関川さんに同行して貰いました」
獅堂は、資料をめくりつつこちらに顔を向けた関川に、軽く頭を下げた。
「で、店主は何て?」
最初のコメントを投稿しよう!