3.欲望に忠実な男×都合のいい男

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「店に入ってきて、黙って座って独りで飲んでいたそうです。時々時計を見て、30分位で出て行ったって」 「奴も誰か待ってるのかねえ」 「あの店の前に、来月取り壊し予定のビルがあります。オーナーと交渉して来ました。もうどの部屋も貸してないんで、好きに使っていいそうです」 紅峰はそう言って、獅堂の目の前に鍵をかざした。 「おー、仕事速いね。じゃあもう一度聞き込みして、そこで張ってみるか」 聞き込みの成果はなく、店の開店時間に向かいのビルに入ると、2人は店の入り口を見下ろすのに調度いい部屋の扉を開けた。 「あっちーな、おい、冷房ねーのか?」 「テナントいないのに電気引いとかないでしょ。はい」 紅峰は、バンダナに包んだ保冷剤を手渡した。 「紅峰くーん、いいお嫁さんになれるね」 「してくれるの?」 「うーん・・・」 松永が殉職した後、課に1人別の部署から異動してきて、当然自分は今後彼と組んで捜査をするのだろうと獅堂は思ったが、彼は紅峰の相棒だった関川と組むことになり、獅堂は紅峰と組まされた。紅峰はその理由について獅堂をよく知らない人物では怖くて逆らえず、獅堂の意のまま暴挙に加担してしまう危険性があるからだと淡々と説明して獅堂をムッとさせた後、いきなりカミングアウトしてきた。 『獅堂さん、松永さんに惚れてたでしょう。わかりますよ、私も同性ばかり好きになる男ですから。ちなみに獅堂さん、私のタイプです』
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