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そしてとうとう門久利の病院は閉鎖となってしまった。
娘可愛さに正しい判断の出来なくなった父親が、業界の圧力をちらつかせて門久利のスタッフたちを引き抜き、病院閉鎖をたくらんだらしいという噂もたったが後の祭りである。
何もかも失った門久利は、街を離れようと思い立ち新幹線に乗った。
目的地は特になかったが、ただ「遠い場所」へ行きたかった。
人々の力になりたいという気持ちだけで医者になった。
だが皆は、自分に対して酷い仕打ちばかりする。
そんな「人間」という存在を助ける仕事に意味などあるのか?
門久利は、自分が生きる意味すらも見失いかけていた。
「失礼」
新たに乗車してきた男が、門久利の隣の指定席に座る際に一声かけてきた。
窓側に座っていた門久利も男を見ながら軽く会釈する。
その男は仕立ての良いスーツの上からでも筋肉の厚みを感じさせる、見事な体格をしていた。
だが威圧的な態度は一切感じられず、挨拶した時の柔らかく低い声からは優しそうな印象を受けた。
「スポーツ選手だろうか?」と、外科医の門久利は思った。
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