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「実は決めていなくて。やけをおこして乗ったものですから」
そう言って、バツが悪そうに頭をかく。
それを聞いたアザミが少し考えこんだ様子を見せた後、門久利の耳に唇をよせて囁いた。
「もしよろしければ、今夜は俺とご一緒しませんか?」
ゾクリ!
吐息を含んだ艶のある低い声が耳の中に響き、甘い痺れが全身を電気のように駆け抜ける。
一瞬、熱くなりすぎた頭がぼんやりしかけたが、真面目な門久利は必死に自分に言い聞かせた。
彼は親切で言ってくれているんだ!
私はいい歳をした大人なんだ!
もうこれ以上、彼の厚意に甘えるわけにはいけない!
丁寧に断ろうと決意をしてアザミを見ると、色っぽい唇の口角を上げた楽し気な表情で門久利の返事を待っている。
まるで「貴方を歓迎している」とでも言うように。
「……はい、ぜひ」
断りの言葉をすべて失ってしまった門久利の手を、アザミの厚い手のひらがスルリと包み込むように握った。
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