【11】ドクター・モグリ

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 とても温かかった。  誰かと手を繋ぐなんて何年ぶりだろう。  たとえ自分の身がこの後どうなろうと、このままアザミと別れるよりはマシだと思えた。  自然と共存する地方都市の駅で二人は新幹線を降りた。  アザミの顔が利く宿があるから、門久利を招待したいのだという。  駅からタクシーに乗り、夕暮れの市街地を抜けて山道を長く走り続けると森の中に小さな灯りが見えた。  どうやら利用者が限られた隠れ宿のようだ。  降車した門久利は学会などで高級ホテルを何度も利用したことがあったにも関わらず、圧倒的に格が違う目の前の光景に驚かざるをえなかった。  見事に手入れされた広い日本庭園の中に独立した離れとなっている客室が少数だけ点在しているという、贅沢な別天地が広がっていたのだ。  高級感あふれる落ち着いた和風の室内には専用の露天風呂が付いており、それぞれ二人は旅の疲れを癒すと、素材にこだわりが感じられる美味い料理と銘酒を楽しんだ。  久しぶりに心休まる時間を過ごして、飲みすぎてしまったのだろうか。  到着した時は快適だった室温が分からないほど体が熱い。  気分が高揚して汗も随分かいてしまっているようだし、また後で露天風呂に入るか。  今度はアザミさんも一緒に……。
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