1484人が本棚に入れています
本棚に追加
アザミに気付いた氷動が、起き上がろうとする。
それをカギヤの時のように制して上体を戻させると、やはり先程と同じようにベッドの隣りの椅子に腰かけた。
モグリの話しによると氷動は腹部を撃たれていたが、その他に目立った外傷はないとのことだった。
今見た限りでは会話をしても支障はなさそうだな、とアザミは思った。
氷動が体勢を戻した際、アザミから少し距離をとったことに気付き、
「ん?俺の『ヒミツ』誰かから聞いたのか?」
「はい。カギヤさんから」
それを聞いたアザミは楽し気に笑った。
「だったら話は早ぇな。初顔合わせの時のようにフェロモン全開にはしてねぇよ。常に体に纏わりついている分は仕方ねぇけどさ」
怪我をしていつもより弱っている状態でアザミに会ったら、初顔合わせ以上の過剰反応が出るのでは、という一抹の不安が氷動にはあった。
しかしアザミが言う通り、多少落ち着かない気持ちにはなったものの、それほど体に変化は起こらなかった。
痛み止めの薬が効いていることもあり、全身の反応が鈍っているのだろう。
「久しぶりだな。初顔合わせ以来か?」
「……はい。このたびは申し訳ありませんでした」
相変わらず表情のない氷動の美しい目に、長い睫毛が伏せられる。
最初のコメントを投稿しよう!