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そして座っているアザミに頭の高さを近付けると、氷のような視線で見据えた。
「身を挺して自分を助けようとしてくれた仲間を、見捨てて行けと言うんですね?」
「氷動。オメェが今回やったことは救助でもなんでもねぇ」
アザミが重みを宿した低い声で言った。
「相手は拳銃を持っていた。ヘタすりゃ死体が一つ増えただけだったのかも知れねぇんだぞ?」
病室内に物音一つない時間が流れた。
その沈黙を破ったのは、氷動だった。
「本当は……『二人ともやられたら調査結果が届かないところだった』と、思っているのではないですか?」
「なに?」
「自分は死んでも良かったんです。カギヤさんを助けたかっただけなんです」
アザミは、一瞬言葉を失った。
「オメェ……自分自身は『生きる』ことに執着がないのか?」
「はい。ですから自分は迷わず『96』に入ったんです」
氷動の目はアザミに真っすぐ向けられていた。
これは嘘偽りのない氷動の本心だ、とアザミは感じた。
「第一、そういう人間でもない限り『96』の一員となり、日の当たらない無法地帯で生きていこうなんて誰も思わないでしょう?」
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