【13】最後のキス

7/11
前へ
/244ページ
次へ
 すると、その予感は当たってしまったのだ。 「オメェ……自分自身は『生きる』ことに執着がないのか?」 「はい。だから自分は迷わず『96』に入ったんです」  あの時の氷動の言葉。  あれはやけを起こしたとか、入院生活でストレスが溜まって出た発言なんかじゃない。  きっと氷動は「96」に入る前に、長い時間をかけて少しずつ池の底に溜まっていったヘドロのような感情を、表情を失った冷たい美貌の下に抱え込んで生きてきたのだろう。  フェロモンに過剰な反応を示したり、あまりにも美しい顏の印象が強すぎる新メンバーのことを、実はまだよく知らなかったんだなとアザミは自省した。  アザミの車のカーナビには、マリネの手が加えられていた。  画面を切り替えると追跡モードとなり、マリネの作った小型発信機の位置が表示されるのだ。  負傷しているため、氷動は途中で休みながら走行しているのだろう。  バイクの走行距離は、アザミが思っていたよりは延びていなかった。 「ん?この方向は……そうか氷動の奴、あの場所に向かっているのか」    午前1時近く。  海の近くに建てられた、茶色いレンガのショッピングモールは静まり返っていた。
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1484人が本棚に入れています
本棚に追加