【13】最後のキス

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「懐かしいぜ」 「……この場所に思い出があるんですか?」 「ちょうど今ぐらいの時間、あの建物の通路で屋多野組(やたのぐみ)の黒沼とお楽しみ中だったんだぜ、俺」  黒沼から情報を聞き出した日のことを言っているのだと、氷動にも分かった。 「途中でやめなきゃならなかったのが、残念でもあったけどな」 「班長は……すごい人だったんですね」  また氷動にあきれられるとばかり思っていたアザミは、耳を疑った。 「なんだよ調子狂うな」 「任務一つこなすことも出来なかった今になって……よく分かります」 「最初から上手(うま)くいく奴なんていねぇよ」  アザミの声が柔らかく響く。 「想像出来ねぇだろうが、俺にだって初々しい新人時代があったんだぜ?」 「……まったく想像出来ませんね」 「ははっ、証拠写真の一枚でも、持って来りゃ良かった」  少し沈黙した後、アザミは呼吸が乱れている氷動に何かを手渡した。 「飲め」  それは氷動が見たことのない小さな錠剤だった。  逃亡者の口を封じる「96」の処刑道具ってわけか。
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