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「懐かしいぜ」
「……この場所に思い出があるんですか?」
「ちょうど今ぐらいの時間、あの建物の通路で屋多野組の黒沼とお楽しみ中だったんだぜ、俺」
黒沼から情報を聞き出した日のことを言っているのだと、氷動にも分かった。
「途中でやめなきゃならなかったのが、残念でもあったけどな」
「班長は……すごい人だったんですね」
また氷動にあきれられるとばかり思っていたアザミは、耳を疑った。
「なんだよ調子狂うな」
「任務一つこなすことも出来なかった今になって……よく分かります」
「最初から上手くいく奴なんていねぇよ」
アザミの声が柔らかく響く。
「想像出来ねぇだろうが、俺にだって初々しい新人時代があったんだぜ?」
「……まったく想像出来ませんね」
「ははっ、証拠写真の一枚でも、持って来りゃ良かった」
少し沈黙した後、アザミは呼吸が乱れている氷動に何かを手渡した。
「飲め」
それは氷動が見たことのない小さな錠剤だった。
逃亡者の口を封じる「96」の処刑道具ってわけか。
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