【14】呪い

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【14】呪い

 氷動は非常に裕福な母方の祖母に育てられた。  両親の記憶はなかった。  物心がつく前に二人とも事故で亡くなってしまったので、一人娘の忘れ形見として祖母に引き取られたと聞かされていたのだ。  そんな彼が唯一夢中になったものがある。  イギリスから一時帰国した祖母の兄、すなわち氷動の大伯父が小学校の入学祝いとしてプレゼントしてくれたトライアル競技用のバイクだった。  祖母は「怪我をしたらどうするんだ」と猛反対であったが「広い庭も土地もある。本人も興味を持っているんだ。過保護すぎるのもよくない」という大伯父の言葉に、しぶしぶ了承した。  それからの氷動は、学校から帰ると祖母が近場に所有する山を練習場として使用させてもらい、毎日のように険しい足場でバイクに乗る日々を送っていた。  やがて彼は「もっとバイクを自分の意のままに操れるようになりたい」と願うようになり、体重を落としながら体も鍛え続けた。  しかし氷動は、大事に自分を育ててくれている祖母への恩義も忘れたことはなかった。  将来は弁護士になって資産家の祖母のために役立とうと決意し、有名私立大学の法学部に進学したのだ。  家は資産家、誰にでも分け隔てなく親切な上に、ずば抜けた美しい顏立ちと引き締まった肢体の持ち主とくれば目立たないわけがない。  しかもこの頃の氷動は、表情が豊かだったのだ。  当然ながら女子学生たちが磁石に引き寄せられた大量の砂鉄のように、常にくっついてまわっていた。  街へ出れば、スカウトマンに声をかけられることも珍しくなかった。
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