【14】呪い

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 氷動の母ユリエは、聡明で心優しい美少女であり、早くに夫を亡くした祖母が女手一つで育て上げた自慢の娘でもあった。  ある日、ユリエは海外のロマンチックな恋愛映画から抜け出したような美しいハーフの青年、ミハルと出会う。  二人が恋に落ちたことを知った祖母は、大金を使ってミハルの周辺を慎重に調べさせた。  すると「ミハルという男は、違法な薬物の売買に関わっているようだ」と報告を受けたのだ。  そこで調査結果を娘に伝え「ミハルとはもう会わないように」と忠告した。  しかし恋をしているユリエにとって、親心は単なる障害でしかなかった。  恋は障害があるほど燃え上がってしまう。  ほどなく小悪党のミハルに入れ知恵されたユリエは、家にあった現金や宝石の類いをありったけ持ち出し、彼と駆け落ちをしてしまった。  その後、若い二人は幸せに……ならなかった。  美しく甘いマスクをしたミハルは、女に困ることがなかったのだ。  ユリエもそのことには気付いていたが「どれだけ女遊びをしても、最後には自分を選んで戻って来てくれる。お腹の子と三人で、温かい家庭を作ってくれるはず」そう信じていた。  いや、正確には「もしも、ミハルが戻って来なかったら」と考えるのが怖くて、現実逃避をしていただけなのかも知れない。  その心の弱さが悲劇を起こした。
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