【14】呪い

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 意識が混乱した祖母は、容体が急変。  そのまま帰らぬ人となった。 「家族として愛されていたわけではなく、自分は殺されるためだけに育てられていたんです」  氷動は静かにそう締めくくった。  アザミは「なぜ氷動自身が生きることに執着しないのか」ようやく理解した。  いつどこでも注目を浴びる美しい顏は、氷動の存在理由を汚した男の顔だということも。  その後、悪党を心から憎むようになった氷動は、弁護士ではなく警察官になった。  彼が数々の手柄を上げながらも階級が巡査長のままであったのは、逮捕時に手加減のない過剰な暴行が、たびたび確認されていたからであった。  きっと自分を最低な運命の鎖でがんじがらめにした、犯罪者でもあった父親を思い出しての行為だったのだろう。  ここに来る前、片岡警視長から氷動に関するデータを再度見せてもらったアザミが不思議そうに尋ねた。 「オメェ、そんな嫌な記憶がある場所に、なんで来たんだよ?」  現在、氷動とアザミがいる広大な駐車スペースを持つ茶色いレンガのショッピングモール。  人気スポットが作られる前、ここは氷動が育った場所だったのだ。  今となっては屋敷も、大きな庭も、バイクの練習用に使用していた山も、すべて跡形もなくなってしまっているが。
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