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「現在の自分は25歳。どうやら祖母の呪いからは、逃げられなかったようです」
青白い美貌が、自嘲気味に薄っすら笑った。
「でも、この辺りから見る海は好きだった。ですから逃亡を理由に『96』に消されるなら、最期にもう一度だけ見ておこうと思って」
「海ったって、真っ暗でなんにも見えねぇじゃねぇか」
ベンチから立ちあがったアザミは、海に近づき柵に両手をかけた。
「まだ日の出には早いですからね」
「ほぅ。どんだけいいモンが見られるのか、俺もちょいと待ってみるか」
と、ジャケットの内側から、煙草と古びたライターを取り出した。
そして真っ黒に塗り潰された景色を眺めながら、慣れた手付きで火をつける。
「オメェのバアさんは、きっと長年に渡って自分自身に呪いをかけちまってたんだな」
氷動の心を軽くするために、都合良く調子を合わせている風には聞こえなかった。
きっと氷動の話を聞いて思ったことを、そのまま言っているのだろう。
「そして氷動。オメェはそんな目にあっちまったから、自分自身の命をどう扱えばいいのか分からなくなってたんだな」
「……」
「自分が生きることには無頓着なのに、カギヤを必死に助けようとしただろ?」
「……でも『96』には、いらない感情なんですよね……」
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