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表の世界では殺すために生かしてきたと言われ、裏の世界では自分の命を大切にしない奴はいらないと言われた。
「生まれた瞬間から、自分は誰からも望まれていない存在だったと思い知らされて……だからもう……」
氷動は右手で顔を覆った。
「自分の居場所は……どこにもないのだと」
氷動のつらい気持ちを、まともに受け止めようとする者などいなかった。
大切だと思っていた家族たちに裏切られ、忌み嫌う顏を毎日周囲から褒めたたえられ続けた。
その美貌と裕福な生い立ちを知る人々は「世の中にはもっと大変な人がたくさんいる。悩みだなんて贅沢を言うな」と聞く耳を持ってはくれない。
この顏を捨てようと真剣に思ったことも何度もあった。
しかし何も悪くない自分が、ミハルに負けて生きていくのも嫌だった。
そしていつしか氷動の心は、豊かな表情を消し去るほどの重い鎖に繋がれてしまったのだ。
氷動の心の中を知ったアザミは、携帯灰皿で煙草を消すと彼の隣りに座った。
「俺、オメェに病室で言ったよな?『勘違いしてねぇか』って」
アザミは氷動の肩に大きな手を回して抱き寄せた。
「……はい、覚えています」
「カギヤを助けようとして全力で行動したこと、俺はすげぇ高く評価してんだぜ?」
氷動は驚き、思わずアザミを見た。
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