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【15】黒沼の罠
「おっ!こりゃすげぇな!」
思わずアザミがベンチから立ちあがって叫んだ。
真っ黒な景色の中心辺りから光が細い糸となり、空と海を上下に分けていく。
一度登り始めた太陽のスピードは速く、あっという間に目の前の闇は消え失せ、美しくきらめく海が果てしなく広がる光景へと変化していた。
「氷動がこの景色を最期に見ようと思ったのも、分かる気がするぜ」
氷動も立ちあがると、アザミの隣りにやって来た。
「いつも独りで見ていた景色です。誰かと一緒に見たのは初めてなんです」
「へぇ、そいつぁ嬉しいねぇ。宝物を分けてもらった気分だ」
無表情ではあるが、その言葉を聞いた氷動から嬉しそうな雰囲気をアザミは感じとっていた。
再び二人はベンチに戻ると、整えられたあご髭に手を当てて考え込んでいたアザミが、おもむろに口を開いた。
「そうだなぁ……オメェは負傷して体が動かせないことに耐え切れず、トレーニングしたくて入院中のモグリ病院を抜け出しちまった……ってことにするか」
「班長?」
「今回は『逃亡』じゃなく『病院から無許可で外出した』としておく。いいな?」
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