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アザミはそう言った後、さりげなく氷動に近づいた。
「ハニートラップの時、黒沼に誘われたんだけどよ。このすぐそばにホテルがあるらしいぜ」
いつもの調子で、にんまりと笑って続ける。
「オメェが病院のベッドに戻る前に、そっちのベッドにちょいと寄っていかねぇか?」
「お断りします」
氷動は無表情で即答した。
「返事早ぇな!まぁ、そう言うだろうとは思ってたけどよ」
しかし氷動が続けたのは、アザミの予想外の言葉であった。
「自分は現時点で、作戦完遂に一つも貢献しておりません」
姿勢を正してまっすぐにアザミを見つめる氷動は、相変わらず無表情ではあったが、強い生命力に満ちた光を纏っているようにも見える。
「まだ班長を口説けるほどの男ではないと思っています。今は一刻も早く、任務に復帰出来るよう回復に努めます」
どうやら輝く朝日とアザミの存在が、氷動の心を長きに渡り闇の中に繋いでいた鎖を消滅させたようだ。
「……氷動の奴、一気に『いい男』に化けやがって」
氷動の後ろ姿を見送りながら、アザミは彼の言葉に体の中心が火照らされたのを感じていた。
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