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「客なら大きな箱を袋に入れて店から持って出て行っても、ただ買い物していただけだと思われるスね」
ベッドに戻った氷動にアザミが近づき、その隣りに腰かけた。
「すげぇじゃねぇか」
「ありがとうございます」
「お手柄だ。早速、オメェの能力が役に立ったな」
氷動の能力に関しては、片岡警視長からアザミが再度受け取った彼の資料に記されていた。
一度見たり関わったものは忘れない、驚異的な記憶力。
幼少期から趣味のバイクと勉強を両立させるためには、限られた時間を最大限に活用するしかなかった。
「自分がやりたいことに使う時間を捻出するために、何ごとも一回で完全に覚えて、次に進めていかなければ」と意識を持ち続ける内に、長い年月をかけて習得した優れた能力である。
氷動が苦笑いしながらアザミに言った。
「将来は祖母のために弁護士になろうと思っていました……皮肉ですよね。祖母の本心を知らずに懸命に努力した結果、自分にこんな能力が身に付いてしまったなんて」
「今までの人生の中で、努力だけは氷動を裏切らなかったのさ。そしてそれをどう活かすかってのは、これからのオメェ次第だ」
「はい、班長」
するとアザミが、少しとぼけたような声で氷動に質問した。
「ん?そういえば『俺たちの班にオメェは必要だ』ってのは……言ったかなぁ?」
「はい。もちろん覚えていますよ」
「さすがだ、いい記憶力だぜ」
そして二人は、笑顔を交わしたのだった。
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