1488人が本棚に入れています
本棚に追加
【17】ノワール・ゲーム
F市。
工業地域であるこの街には、数多くの大工場がひしめきあっている。
道路の幅も全体的に広く直線的で、日中であっても歩行者の姿はあまり見られないが、その代わりに各工場や運送会社の名前が書かれた大型トラックが多数行き交っている。
しかし夜になるとまったく人影は見られず、タクシーや乗用車がこの地域から随分離れている駅や繁華街、住宅街に向かって、たまに通り抜けていく程度であった。
この辺りにも何軒か営業している店はあるのだが、主に日中の工場勤務の人々を対象とした個人経営の小さな飲食店のため、午後9時をすぎると大抵シャッターを下ろしてしまう。
屋多野組若頭補佐の黒沼がアザミに教えた店は「ブランド専門高級質店ノワール」という小さな看板を出していた。
歩行者の少ない場所にあるノワールは、立地的には「こんなところで営業して成り立つのだろうかと思わせる店」のようにも見える。
もし走行中の自動車から小さな看板が目に入ったとしても、多くの人間に関心をもたれることは期待できないだろう。
それが黒沼の狙いだった。
彼はゲームショップが警察に目を付けられ始めていると気付き始めた頃から、新たな拠点を探していた。
そしてギャンブル好きが高じて、屋多野組が経営する闇金に手を出してしまったこの店の元オーナーに「借金を帳消しにしてやる」と持ちかけ、不動産会社を介さない方法で店舗を手に入れたのである。
アザミ班のメンバーたちは「極秘データ」を入手するために、ノワールへの潜入決行日まで徹底した現地調査とそれぞれの準備を進めていた。
最初のコメントを投稿しよう!