【17】ノワール・ゲーム

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 氷動は時間帯と服装を変えて何度も工場エリアをバイクで走行したり、路地裏を歩くことで周辺の風景を慎重に頭に叩きこんでいった。  さらにアザミ班は実際に店舗の中と、その敷地内も可能な限り調べることにした。  客のふりをして「感じのいい一般的な会社員」に見えるカギヤが本来なら店内へ潜りこむところなのだが、包帯はとれたものの顔には数ヶ所の傷痕がまだ残っている。  そこで今回だけ特別に「最強に地味な男」こと片岡警視長が、カギヤの代わりに店内を偵察することとなった。  ノワールの外では体格の良い警備員らしき男が一人、周囲を警戒して歩き回っている。  入り口の自動ドアが開くと店内にチャイムが大きく響いた。  暇そうにスマホをいじっているカウンター内の若い店番は、黒沼派の舎弟の一人、山下だと片岡にはすぐ分かった。  山下は地味に入店した客をチラリと見たが、特に怪しくもなさそうだし金になりそうもないと判断したのか再びスマホをいじり始める。  二階への階段の手前には「関係者以外立入禁止」の札が立てられていた。  この建物は一階だけを高級質店ノワールとして使用しているようだ。  事前にマリネが手に入れたという間取り図と大きな違いはなさそうだと、片岡は確認できた。  数分後、地味に店を出て行った何の特徴もない片岡の顔を思い出すことは、もう山下には不可能だろう。  ついでに片岡は外周も見て行くことにした。
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