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車道に面した来客用の正面入り口から見ると、店舗の左横は裏手に広がる駐車スペースを利用する自動車のための出入り口となっている。
片岡以外に客の姿がなかったにも関わらず、現在の駐車スペースには三台の乗用車がとめられていた。
おそらく組員たちの私用車であろう。
片岡は三台分のナンバープレートを記憶した。
店舗の右横には屋根部分と両側面にトタンが張られた駐輪スペースが外壁にくっつけるように作られているが、自転車は一台もなかった。
代わりに数個のブロックや逆さまの植木鉢、銀色の自動車カバーが数枚ぐしゃぐしゃと突っ込むように放置されており、前面のない物置のようになっている。
また歩行者や駐輪スペース利用者ならばここから裏手の駐車スペースへ通り抜けられるのだが、自動車では無理だろう。
「何か御用ですか」
強面な警備員が近づいてきて、威圧的な口調で声をかけた。
片岡が「固い服装をしているから分からなかったが、黒沼派の舎弟の一人、瀬田だったのか」と気づく。
そして工場関係者のふりをして、
「今日は歩いてきたんだが、駐輪スペースがあるんだったら自転車で来れば良かったよ……」
と、地味に言いながら去って行った。
何の特徴もない片岡の顔と声を思い出すことは、もう瀬田には不可能だろう。
ノワールから20分ほど歩いたコンビニの駐車場に、黒い乗用車が停車していた。
片岡はその車に近づくと後部座席に乗り込んだ。
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