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建物への出入り口は高級質店ノワールに来店した客が利用する正面入り口と、その正反対となる裏手の駐車スペースに面している従業員専用口の二ヶ所となる。
二階には給湯室、ユニットバス、物置、そして舎弟の相部屋が二つ。
三階には物置が二つ、黒沼の部屋、舎弟の中では筆頭扱いの西沢の部屋がある。
西沢は見事に鍛え上げられた体躯の大柄な男で、黒沼の運転手とボディガードを兼ねている。
黒沼と西沢を恐れて、二階の者たちが三階へ上がってくることは余程のことがない限りはなかった。
ノワールの営業時間は午後1時から午後7時までと短時間に設定されており、そのことも客足を遠のかせていた。
閉店時間になると正面入り口に厳重に鍵をかけ、舎弟たちが店内を一通り見て回る。
異常なしと確認して一階の売り場を消灯したら休憩時間となり、今まで休憩していた者たちと交代するのだ。
休憩時間になった黒沼はバーボンを注いだグラスを手に取り、自室に置かれた一人掛けの革張りソファに深く座った。
このソファと壁に掛けられた額入りの油絵だけは、自宅から持ち込んだものだ。
どちらも高級感を感じさせはするのだが、広さが六畳の質素な部屋の中ではちぐはぐな印象の方が強くなる。
「ずっとこんなシケた部屋にいたら、すでにムショ(刑務所)に入ってるような気分になっちまう」
黒沼は苦々しげに呟くと、美味くもなさそうにグラスを傾けた。
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