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「これを……渡していただけませんか?」
男は低い声で囁くようにそう言うと、瀬田に小さな白い封筒を差し出した。
警戒しながら受け取り両手で軽く曲げてみたが、中に硬い金属などは入ってなさそうだ。
そして相手の話し方が丁寧で恐ろしさを感じさせなかったということもあり、瀬田は少し強気になった。
「これを誰に渡してほしいんだ?」
「それが……名前は分からないんです」
「なに?怪しい奴だな。おい、車から降りろ!」
「茶色いレンガのショッピングモールで世話になった者と言ってもらえれば……」
「……ん?」
瀬田には聞き覚えがあった。
だが、誰から聞いたんだろう……、茶色……レンガ……。
「茶色いレンガのショッピングモールで会った」と言って男が訪ねてきたら、俺が招待した客だ。
すぐ俺のところに連れて来い。
以前そう黒沼に言われていたことを瀬田が思い出した時には、もうテールランプは闇の中に遠ざかっていた。
大変だ!すぐ黒沼さんに伝えねぇと!
瀬田は半ばパニックになりながら店の裏へ走って行くと、従業員専用口のドアをすごい勢いで開けて中へ飛び込み、一気に黒沼の部屋のある三階まで駆け上がった。
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