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ちなみに手紙には、アザミのフェロモンがたっぷりと染みこませてあるというのは、言うまでもない。
正確に言えば「極秘データ」の金庫番を任されているだけの黒沼なのだが、組長から離れ、ノワールで自分自身の組を構えているような気分に浸れるのは気持ちが良かった。
しかしそれと同時に「絶対に失敗は許されない」という舎弟たちには言えない重圧にも、日々独りで耐え続けなければならなかった。
常に完璧であり周囲に弱みを見せることのできない極度の緊張状態を一年近くも続けてきたことが、限界ぎりぎりのところまで自分自身を追い込んでしまっていたのだ。
そんな心の乾きがアザミと過ごした濃密な時間を再び激しく欲していることに、黒沼は気付いた。
……そういえば、あの男に出会ったのは、警察をまんまと出し抜きゲームショップに罠を仕掛けて逃走した時だったな。
あの時の俺は極度の緊張感から解放された直後で、酒も美味かった。
今、思い出しても、あの男と過ごした時間は極上だった。
途中で邪魔さえ入らなければ、いやらしい声と体をしたあの男をRホテルに連れ込んで、思いっきり啼かせながら何度もイカせてやりたかった。
黒沼は茶色いレンガのショッピングモールでの熱い夜を思い出しながら、アザミにしたように手紙の端にも舌を這わせた。
すると甘く溶ろけるような興奮を感じて、めまいに襲われそうになる。
このままじゃ、おかしくなっちまう!
一度思い切り発散させて、俺の状態をリセットする必要があるのかもな。
グラスの横にアザミから受け取った手紙と封を置いた黒沼は、自分に都合のいい理由を考えながら急いで身支度をすると廊下へ出た。
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