【18】小さな棘

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【18】小さな棘

 黒沼は、自分にとって片腕的存在である西沢の部屋をノックした。 「俺だ。急用がある」  (あるじ)の声を聞いた忠実な部下が、すぐにドアを開けた。  圧倒的な強さを持つ西沢は黒沼派の他の舎弟からだけではなく、屋多野組(やたのぐみ)の中でも恐れられている存在である。  彼は元々ある裏カジノのホール内で、賭けの一つとして人気のあった地下格闘イベントにおいて大活躍していたスター選手であった。  リングの上で相手の選手を再起不能にしたり、息の根を止めることも珍しくはなかった。  しかしそこまでやらないと、逆に自分が命を奪われる世界でもあったのだ。  そんなある時「96」が「裏カジノ摘発作戦」を決行。  アザミが経営者の岩原に仕掛けたハニートラップが決定打となり、裏カジノは閉鎖されてしまった。  その際、裏カジノ関係者として拘留された西沢に声をかけ、保釈金を出すという形で彼を護衛として雇ったのが、常連客でもあった黒沼だった。  行き場所を失っていた西沢は黒沼に感謝し、現在も忠誠を尽くしているのである。 「少しの時間、出かける。運転を頼む」 「はい」  西沢は短い返事を言い終えないうちに自室へ引っ込むと車のキーを手にして現れ、その動きは黒沼が無駄な時間に苛立つストレスを与えない。  二人は階段を降りて従業員専用口から出ると、西沢だけが黒沼専用の高級車にすばやく乗り込み、ノワールの駐車スペースの出入口まで移動させた。
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