【18】小さな棘

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 そこでアザミから手紙を託された瀬田が大慌てで従業員専用口から店内に入った際、二人も完全にドアが閉まる前に侵入し、店内を横切って一気に階段まで近づくことができたのである。  ガチャリとドアが開く音がして、西沢が店内に戻ってきた。  イヤホンをオフにし、息を殺して気配を消す氷動とカギヤのすぐ近くを西沢が通りすぎて行くのが、空気の動きや足音で伝わってくる。  ここで見つかったら作戦が水の泡になってしまう。  下手に緊張感や殺気を体から出してしまったら、その気配で気付かれるだろう。  二人は実行するのが一番難しい「何も考えない」ことを考えるように努めた。  それが功を奏したのか西沢はそのまま氷動たちに気付くことなく、階段を上る足音が小さくなっていった。  二人は声を出さないように、大きく深呼吸した。  全身に汗が吹き出す。  どうやら西沢もこれほど店の奥深くに、すでに侵入者がいるとは思わなかったようだ。  あくまでもこの店は「極秘データ」だけを守ることを目的とした建物なのである。  本物の防犯カメラが仕掛けられていたら、そこに「極秘データ」がある可能性は高いだろう。  さらに二人はわざわざ黒沼が側近の西沢をここへ残して、自室の金庫に入れておくようにと預けていった物の正体も気になっていた。  もしかしたら「極秘データ」に関わるものかも知れない。
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