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氷動がわずかにそのドアを開き、カギヤがカーテンが閉まっているのを確認してから二人は侵入した。
最弱に設定した手持ちライトの光にぼんやりと照らし出された高級そうな一人掛けソファと額に入れられた油絵は、質素な雰囲気の六畳間には合っておらず、むしろ氷動には寂し気にも見えた。
黒沼はノワールにくる前の贅沢な雰囲気を、少しでも味わいたいと思ったのだろうか。
そんなことを考えながら、金庫がないか押入れを探してみようと向きを変えた氷動の隣で、
「……芸術鑑賞が趣味って、黒沼のデータにはなかったよね」
と、呟きながらカギヤが額を外すと、後ろの壁には作り付けられた金庫が隠されていた。
「ダイヤルと鍵穴を使うタイプだね」
額の後ろに隠されていた金庫を見たカギヤは、即座にポケットから道具を選びつつイヤホンの先を繋ぎ換えたりしている。
氷動は解錠に取り掛かったカギヤの手元を照らすことに集中した。
実際は三分にも満たない時間だったが、西沢がここにくるかも知れないと警戒していた氷動には、とても長い時間に感じられた。
ガチャリッ。
静かに分厚い扉を開くと、金庫の中は二段に分かれていた。
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