【00】プロローグ

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 今から2時間ほど前。  岩原が行きつけにしている会員制高級クラブのドアが開き、一人の男がきょろきょろと店内を見回しながら入って来た。  髪と髭はややもっさりしているが身長は180ほどあり、シンプルな長袖のシャツの上からでも体格の良さが伝わってくる。  突如現れた招かれざる客への対処に戸惑い、店内がざわついた。  ちょうど帰ろうと思ってドアのすぐ近くにいた岩原は、この店の女性たちにいい所を見せるチャンスだと考え、 「店を間違えたのか?ここは会員制だぞ?」  と、店の黒服より先に男に近づき声をかけた。  男は気分を害した様子もなく、会員制と知らされて驚いた様子を見せる。 「そうだったのか。今日はパチンコで勝ったんで、いつもよりいい店で飲みたいと思ったんだが、邪魔しちまって悪かったな」  スッと男が顏を寄せて()びた低い声には、なんともいえない甘さが含まれており、岩原をドキリとさせた。  じわじわと体が熱くなってきたが、上等な酒の酔いが今頃回ってきたのだろうか。  男はそのまま素直に店を出て行った。 「社長、ありがとうございました!」 「どんな時も堂々としてらして素敵!」  その直後、美しい女性たちの賛辞に囲まれたものの、頭からあの男のことが離れない。  急いで店を出ると、先程の男の後ろ姿が遠くに見えた。  普段から岩原が健康と護身のためにスポーツジムに通って体を鍛えていなければ、追い付けなかっただろう。   「今から飲み直そうと思ってるんだが、一緒にどうだ?」  そう誘うと男が嬉しそうな笑顔になった。 「独りで飲んでもつまんねぇと思ってたところだよ。喜んで」
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