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今から2時間ほど前。
岩原が行きつけにしている会員制高級クラブのドアが開き、一人の男がきょろきょろと店内を見回しながら入って来た。
髪と髭はややもっさりしているが身長は180ほどあり、シンプルな長袖のシャツの上からでも体格の良さが伝わってくる。
突如現れた招かれざる客への対処に戸惑い、店内がざわついた。
ちょうど帰ろうと思ってドアのすぐ近くにいた岩原は、この店の女性たちにいい所を見せるチャンスだと考え、
「店を間違えたのか?ここは会員制だぞ?」
と、店の黒服より先に男に近づき声をかけた。
男は気分を害した様子もなく、会員制と知らされて驚いた様子を見せる。
「そうだったのか。今日はパチンコで勝ったんで、いつもよりいい店で飲みたいと思ったんだが、邪魔しちまって悪かったな」
スッと男が顏を寄せて詫びた低い声には、なんともいえない甘さが含まれており、岩原をドキリとさせた。
じわじわと体が熱くなってきたが、上等な酒の酔いが今頃回ってきたのだろうか。
男はそのまま素直に店を出て行った。
「社長、ありがとうございました!」
「どんな時も堂々としてらして素敵!」
その直後、美しい女性たちの賛辞に囲まれたものの、頭からあの男のことが離れない。
急いで店を出ると、先程の男の後ろ姿が遠くに見えた。
普段から岩原が健康と護身のためにスポーツジムに通って体を鍛えていなければ、追い付けなかっただろう。
「今から飲み直そうと思ってるんだが、一緒にどうだ?」
そう誘うと男が嬉しそうな笑顔になった。
「独りで飲んでもつまんねぇと思ってたところだよ。喜んで」
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