【19】死闘と愛撫

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 氷動は一度見聞きすれば完璧に覚えてしまう記憶を、猛スピードで(さかのぼ)り始めた。  そして西沢が部屋に入ってきた時の言葉を思い出したのだ。 「黒沼さんの部屋に行く途中、監視カメラのランプが消えていたことに気付いちまってさ」  現在、黒沼が留守だということを、もちろん西沢は知っている。  つまり「黒沼の部屋に行く途中」と言うのは「預かったキーを金庫に入れるために、黒沼の部屋に向かっていた途中」という意味なのではないか?  力の強さを自負している西沢なら慌てて金庫に向かう必要もないし、キーを預かった後に自室で雑用を先に片付けていたとしたら、時間的にもおかしくない。  さらに監視カメラの異常に気付いた後も、賊が建物内にいる可能性が高い状況で、大切な物が入っているというアピールにもなる金庫へ黒沼から預かった専用キーを入れようと思うだろうか?  もし自分が西沢の立場だったら……。  氷動は西沢のズボンのポケットをそっと探った。 「ひ……大丈夫だった?」  思わず氷動の名前を呼びそうになって、慌ててカギヤが言いなおす。  黒沼の部屋を出た氷動が隣りの広い物置に行くと施錠されたままだったので、階段のすぐ右にある物置へ向かうと、先に鍵を開けて中にいたカギヤと合流できた。 「殴られ過ぎて、しばらく覆面が手放せなくなってしまいました」
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