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初めて顔を合わせた時、アザミは「どうして、これほど恵まれた外見をした奴が、わざわざ裏の世界で生きることを選んだ?」と正直驚いた。
しかも片岡警視長がスカウトしてくるほどの実力まで持ち合わせているらしい。
表の世界で生きる選択肢なんて、いくらでもあるだろう。
きっと恵まれすぎる現状を退屈だと思っている、贅沢なボーヤなのかも知れない。
そう考えたアザミがいつも通りに氷動の強さを測ろうと接近すると、予想を超えた過剰な反応が見られた。
アザミは「なかなか面白そうな男じゃねぇか」と考えが変わり、この新班員の今後が一気に楽しみになった。
しかしモグリ病院で彼が言った言葉。
「自分は死んでも良かったんです。カギヤさんを助けたかっただけです」
氷動は他人を思いやれる優しい心を持っていながら「殺されるために育てられた」という事実に打ちのめされて、自分自身の命の価値を見失って生きてきた孤独な男だった。
誰もが羨ましがって褒めたたえる美しい顔は、悲劇の元凶を作った父親とそっくりだという皮肉。
しかし氷動は、そんな凄惨な過去に決別したのだ。
「もう……自分の顔です」
これから彼は、堂々と自分の人生を生きていくだろう。
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