【20】闇の96(前編)

1/12
前へ
/244ページ
次へ

【20】闇の96(前編)

 アザミが黒沼を受け入れるための準備をし終えた時、室内の電話が鳴った。  客室用として置かれている電話の受話器を取ると、フロントが「お連れ様からお電話です」と言うので繋いでもらう。 「おう、俺だ。分かるか?」  黒沼の声を聞いた時には、さすがにアザミの頭も任務用に切り替わっていた。 「んんっ……兄さ……ん?」  荒く乱れた呼吸と共に、かすれた妖艶な声でアザミが答える。  黒沼はあまりの色気にゾクリとしつつ慎重に聞いた。 「おい、どうした?まさかあの変態野郎が、追いかけてきたのか?」  すると怯えているというより、恥ずかしそうな声が小さく返ってきた。 「……ごめん……兄さんのこと考えてたら……たまらなくなって思わず」  自分で(いじ)ってた最中だったのか、と思わずゴクリと唾を飲みこむ。 「……我慢出来ねぇなんて悪い子だ。あとでたっぷりお仕置きしてやるからな?」  そう言いながらも、限界なのは黒沼の方だった。  そんなに早く俺に会いたいなら、もっと近くのホテルにすれば良かったのに。  きっとノワールから25分も離れたホテルAに宿泊したのは、アイツと俺の関係を警察官(サツ)である元交際相手に気づかれないように、との配慮からだろう。
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1489人が本棚に入れています
本棚に追加