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あの男はショッピングモールでも、自分自身よりも俺のことを気遣ってくれていたからな。
今回の件が片付いたら、俺の愛人にしてやろう。
「よし、今ホテルAの正面に着いた。すぐ行くから待ってろよ」
通話を切ると、後部座席のドアを開けるために降りようとした運転役の瀬田に、
「自分で開ける。そのまま駐車場で待ってろ」
と、指示を出すと、これ以上はもう無理だというようにホテルAのロビーにせわしく駆け込む。
黒沼はエレベーターが降りてくるのを待つ間、はやる気持ちを紛らわせようとスマホを取り出した。
「……?」
出ない。
ノワールで留守を任せている、西沢が電話に出ない。
様子がおかしい。
常に慎重な黒沼の心がざわついた。
もしも黒沼がアザミの元にすでに着いていたら「西沢はトイレにでも行ってるんだろう」などと適当な理由を考えて、己の快楽を優先させただろう。
しかし今は、まだ黒沼はホテルのロビーにいる。
アザミの手紙に付けられたフェロモンを吸い込んでから、時間も経っていた。
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