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黒沼の不安は欲望に勝ってしまった。
「くそっ!こんなタイミングで!」
黒沼の怒鳴り声が、ひと気のないロビーに響き渡る。
そのままフロントへ駆け寄ると噛みつくような勢いで、
「508号室に、後日また連絡をくれと伝えろ!」
と、乱暴に言い捨ててロビーを飛び出して行った。
ホテルの駐車場は閑散としていたため、即座に自分の車を発見して駆け寄ると、黒沼は運転席の窓をバンバンと強く叩いた。
驚いた瀬田が後部座席のロックを解除すると、黒沼がすかさず乗り込む。
「ど……どうしたんですか?」
「最速でノワールに戻れ!」
「え?は、はい!」
ただ事ではないと怯えた瀬田が、何も考えずに言われた通り車を発進させた。
アザミはカーテンの隙間から、猛スピードで駐車場を去って行く黒沼の車を見下ろしていた。
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