【20】闇の96(前編)

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 黒沼の不安は欲望に勝ってしまった。 「くそっ!こんなタイミングで!」  黒沼の怒鳴り声が、ひと気のないロビーに響き渡る。  そのままフロントへ駆け寄ると噛みつくような勢いで、 「508号室に、後日また連絡をくれと伝えろ!」  と、乱暴に言い捨ててロビーを飛び出して行った。  ホテルの駐車場は閑散(かんさん)としていたため、即座に自分の車を発見して駆け寄ると、黒沼は運転席の窓をバンバンと強く叩いた。  驚いた瀬田が後部座席のロックを解除すると、黒沼がすかさず乗り込む。 「ど……どうしたんですか?」 「最速でノワールに戻れ!」 「え?は、はい!」  ただ事ではないと怯えた瀬田が、何も考えずに言われた通り車を発進させた。  アザミはカーテンの隙間から、猛スピードで駐車場を去って行く黒沼の車を見下ろしていた。
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